※本記事でご紹介する内容は、2026年1月27日にプレスリリースとして公式発表されたものです。
■概要
国立大学において唯一、歯学部附属病院として単独で独立した体制を有する大阪大学歯学部附属病院は、地域の歯科医師会および開業歯科医と連携し、2025年10月1日より、大学病院と地域歯科診療所をデジタル技術で結ぶ歯科医療コミュニティの構築を開始しました。本コミュニティでは、患者主体による大学病院への受診予約を可能とする患者紹介Web予約システム※1を運用しており、2026年1月27日からはX線画像をAI解析することで抜歯手術の難易度評価を支援するAIシステム※2を開始しました。
これまで、大学病院への紹介および予約は、地域の歯科診療所が電話や書類を用いて行うアナログな運用が中心であり、患者および歯科医師の双方にとって、時間的・事務的負担が大きいことが課題となっていました。加えて、術前リスク評価についても、歯科医師個人の経験に依存する部分が多く、客観的な判断を支援する仕組みは十分に整備されていませんでした。
今回、本学が中心となって形成した歯科医師コミュニティに対し、デジタル予約とAI解析技術を組み合わせたシステムを提供することで、患者の医療アクセス向上と歯科医師の業務負担軽減を同時に実現する新たな歯科医療連携基盤を構築しました。本取り組みにより、地域に根差した歯科医療と大学病院における高度医療との連携が一層円滑に進むことが期待されます。

左から、口腔医療情報部・野﨑一徳部長、地域医療連携室・鵜澤成一室長、山城隆病院長、吹田市歯科医師会・岡本吉宏会長、大阪大学D3センター 鎗水徹・教授
■研究の背景
これまで、日本の歯科医療において、地域の歯科診療所と大学病院との連携は、主に紹介状や電話連絡といったアナログな手段に依存してきました。その結果、予約調整に時間を要することや、患者自身が診療状況を把握しにくいこと、さらに歯科医師の事務的負担が大きいといった課題が指摘されてきました。また、親知らずの抜歯などの高度な外科処置においては、X線画像に基づく術前評価が重要である一方、その判断は歯科医師個人の経験に大きく依存しており、客観的な判断を支援する技術の社会実装は十分に進んでいませんでした。これらの課題を解決するためには、地域歯科医師を巻き込んだ持続可能なコミュニティの形成と、実臨床で活用可能なITおよびAI技術の統合が不可欠でした。
■研究の内容
口腔医療情報部及び大阪大学D3センターは、本学を中心に歯科医師会および開業歯科医が参加する歯科医療コミュニティを形成し、近隣7歯科医師会において実証実験を開始しました。対象地域:吹田市、豊中市、茨木市、池田市(能勢を含む)、箕面市(豊能を含む)、摂津市、高槻市(合計約210診療所)
このコミュニティに対し、以下の2つのシステムを提供しています。
第一に、患者紹介Web予約システムです。本システムにより、患者自身がかかりつけ歯科医を通じて大学病院の診療予約をWeb上で行うことが可能となりました。これにより、歯科医師の事務作業を大幅に削減し、患者対応により多くの時間を割くことができます。第二に、X線画像をAIが解析し、抜歯手術の難易度を助言するAI支援システム(下顎管と智歯の接触推定AI)です。本システムは、臨床現場で取得される画像を用いて客観的なリスク評価を提示し、歯科医師の意思決定を支援します。X線画像はD3 センターのデータ集約基盤ONION(Osaka university Next-generation Infrastructure for Open research and open InnovatioN)に蓄積いたします。さらに、本システム群は大阪大学公式アプリである「マイハンダイアプリ」に組み込むことで、既存の認証基盤および統一されたUI/UXを活用し、開発費・保守費を大幅に抑えた形で実装されています。
■本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本取り組みにより、患者はかかりつけ歯科医を通じて口腔の健康を維持しながら、必要な場合には大学病院が提供する、高度な歯科医療をより円滑に受けることが可能となります。また、歯科医師にとっては、従来アナログに行っていた予約業務がデジタル化されることで業務負担が軽減され、患者一人ひとりに向き合う時間の創出につながります。さらに、コミュニティ内で匿名化されたデータを蓄積・分析することで、将来的な歯学研究および歯科医療の質向上にも貢献することが期待されます。
■特記事項
・株式会社ゼネラルリソース、株式会社科学情報システムズ、メディグル株式会社と連携し、開発を進めてきました。
・地域展開:7市2町(豊中市、池田市、吹田市、箕面市、摂津市、豊能町、能勢町、茨木市、高槻市)(令和6年12月24日時点)
・参画歯科診療所数:211件(令和7年1月6日時点)
・歯科医療病診連携フレームワークとして特許取得
特許番号:第7752455号
登録日:令和7年10月2日
本取り組みは、大阪大学が推進するOUマスタープラン※3に基づく「社会を創造していく大学」の理念のもと、学内外の組織が部局の枠を越えて連携し実現しました。今後は、国内の自治体連携にとどまらず、本学が進めるタイの大学との共同研究などを通じ、アジアを中心としたグローバルな歯科医療コミュニティへの展開を目指します。
また、本取り組みは、AI技術の中でも、AIを患者向けサービスとしてポータルに直接連携し、患者紹介と予約の流れの中に実装した点に大きな特徴があります。かかりつけ歯科医が患者を紹介する際、必要に応じてAIによる画像解析結果を参照しながら受診の意義を患者と共有し、その後、ポータルを通じて受診予約を行います。患者紹介情報とAIによる解析結果が相互に影響し合いながら予約につながります。
地域の歯科医師会に対して共通のIDを基盤とした仕組みを提供し、このIDを通じて予約結果や連携状況をモニタリングすることが可能となります。これにより、病院と診療所の連携状況を可視化し、将来的には、こうしたデータを基盤とした病診連携および歯科医療DXの推進を実現します。
■用語説明
※1 患者紹介Web予約システム
地域歯科診療所を起点として、患者自身が大学病院の診療予約をWeb上で行うことを可能にするデジタルシステム
※2 AI支援システム
下顎管と智歯の接触推定AI。X線画像をAIが解析し、抜歯手術などの難易度やリスク評価を歯科医師に助言するシステム。YOLOで439症例の画像を学習させ、パノラマレントゲン画像だけで下顎管との接触の有無を推定できるよう、本院の口腔外科2(修復系) が開発したものです。
※3 OUマスタープラン
大阪大学が掲げる中長期的な大学運営・社会連携の基本方針。
■本件関する問い合わせ先
<研究に関するお問い合わせ>
大阪大学歯学部附属病院 口腔医療情報部 准教授 野﨑 一徳(のざき かずのり)
TEL: 06-6879-2860
E-mail: nozaki.kazunori.dent@osaka-u.ac.jp
<取材に関するお問い合わせ>
大阪大学歯学研究科総務課庶務係
TEL: 06-6879-2831
E-mail: si-soumu-syomu@office.osaka-u.ac.jp
